JR東日本 旅の彩150選
旅の彩150選コラム


vol.07
進化が感じられる駅弁
長い歴史を持つ駅弁は、時代に合わせて進化し続けています。鉄道の撮影で各地を回り、これまでに食べた駅弁が優に6000食を超える鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんに、「ここに進化を感じる」という駅弁を挙げてもらいました。
1.横濱中華弁当 崎陽軒
横浜駅 1,180円
今年は日本の鉄道開業150周年。
「鉄道開業というと皆さん、新橋―横浜間だと思うでしょう。でも全線が開業する5ヶ月前に横浜―品川間で仮営業しているんです。つまり日本の鉄道は横浜から始まっていて、鉄道開業当時は横浜駅だった現在の桜木町駅のそばに、鉄道発祥の地の記念碑もあります」。
その横浜駅の駅弁と言えば、崎陽軒の「シウマイ弁当」があまりにも有名。崎陽軒もまたかつての横浜駅(現在の桜木町駅)構内で創業されました。
「『シウマイ弁当』はもちろんおいしいんですが、そこからさらに進化したと思うのがこの『横濱中華弁当』です。名物のシウマイはもちろん、海老のチリソースや酢豚、チンジャオロースーなど、中華の人気のおかずが揃っている。食べたいものがちょこっとずつ全部入っている感じで、僕は大好きなんですよ。手軽に中華街の味が楽しめる。いわば、おひとりさま中華街ですね(笑)」。
鉄道の開業とともに発展してきた横浜で、生まれ育った美味が楽しめます。


2.二大将軍弁当 ホテルハイマート
直江津駅 1,800円
「駅弁味の陣」の初代大将軍の「鱈めし」と八代目大将軍の「さけめし」は、ともに直江津のホテルハイマート自慢の駅弁。
この二つが合体したのが「二大将軍弁当」で、これは駅弁ファンにとって喜ばしい進化の形です。
「僕は直江津駅に行くたびに、『鱈めし』にしようか『さけめし』にしようかとすっごい悩むんですよ。どっちも食べたいけれど、一度に両方は食べられない。それが見事に合体してくれたのでうれしいかぎりです。メインの棒だらの甘露煮や焼き鮭のほぐし身だけでなく、それぞれの弁当のほかのおかずも全部小分けされて入っていて、両方のおいしさがしっかり味わえる。ボリュームもたっぷりで非常に満足度が高いですね。ちなみに僕はハイマートさんに『両方の味が楽しめるようにしてほしい』とずっとリクエストしていたんですが(笑)、同じような要望が多かったことが合体につながったんじゃないでしょうか」。
見事な進化でグレードアップした駅弁は、さらなる人気を集めています。


3.峠の釜めし World Taste Series
ジェノベーゼ 荻野屋
横川駅 1,100円
まさしく駅弁の進化形と言えそうなのが、峠の釜めしで知られる荻野屋の世界の釜めし「World Taste Series」※。
その一つとして登場した「ジェノベーゼ」は、ジェノベーゼソースを混ぜ込んだご飯に、鶏肉のトマトソースがけやズッキーニ、なすなどがのったイタリアンな釜めしです。このほかビビンパ、パエリア、ピラフなどがこれまでに期間限定で発売されました。
「これを見たときに、駅弁がついにこういう時代に突入したんだなということを痛感しました。駅弁で世界の味が楽しめるなんていいですよね。じつは日本の駅弁は海外にも進出していて、ミラノやパリで開かれたフェアで非常に話題になったんですが、今後はもっとEKIBENが世界に広まるはず。それとこのシリーズの釜めしには、環境に配慮した紙容器が使われているのも今の時代を映していますよね」。
容器はサトウキビの搾りかすなど、通常では産業廃棄物になる原料から作られたパルプモールド製。中身も容器も現代的な駅弁です。
※「世界の釜めしシリーズ」は現在販売を停止しており、具体的な販売再開の時期は未定です。


4.伊達のかきめし こばやし
仙台駅 1,300円
仙台駅の駅弁といえば、名物の牛たんを使った弁当が定番。
「伊達のかきめし」の製造元であるこばやしも、牛たん弁当の老舗として知られています。
「そうした中、仙台駅でこれを見つけたときはうれしかったですね。そもそもかきのお弁当って、北海道の厚岸駅や、広島駅の冬季限定かきめしなど、地域と季節が限定されるんですよ」。
じつは宮城県は広島県に次ぐかきの特産地。地元自慢のかきのおいしさを、手軽に食べられる弁当の形で発信したいと企画されたこの駅弁。ふっくらと炊き上げた宮城県産のかきが、宮城県産環境保全米ひとめぼれと、かきの煮汁を使ったかきご飯の上にのっています。
「しかも、このお弁当には加熱式の容器が使われていて、ひもを引き抜くと温まる仕組みになっているんです。上にのった大粒でぷりぷりのかきも、かきのうまみがしみたご飯も、温かいとなおさらおいしいですね」。
かきめしをあつあつで食べられるお弁当の登場は、駅弁の進化の現れです。


5.大糸線の旅 イイダヤ軒
松本駅 1080円
長野県の松本駅と新潟県の糸魚川駅を結ぶJR大糸線。
「いわゆる安曇野を走っている路線です。その沿線にある長野県松川村は男性長寿日本一の村ということから、松本市にあるイイダヤ軒さんが、健康・長寿をテーマにこのお弁当を作ったんだそうです」。
「大糸線の旅」は、大糸線沿線の食材を使い、郷土料理研究家の監修のもと、無添加にこだわって製造。ポリフェノールが豊富な紫米を使った紫ご飯の上に、米を食べて育った信州米豚のみそ焼き、天然だしでじっくり煮た大根とにんじんの白煮、信州の伝統食で発酵食品のしょうゆ豆、黒豆煮、しいたけのうま煮など、栄養バランスも考えられた健康的なおかずが並んでいます。
「どれも素朴でやさしい味です。ご長寿の方たちが日々食べている地場産の素材を使っているわけですから、これほど健康的なお弁当ってないですよね」。
地元食材へのこだわりやヘルシーさの重視は今のトレンド。駅弁が時代に合わせて進化していることが実感できます。


櫻井寛(さくらいかん)
鉄道フォトジャーナリスト。国内外を問わず各地を飛び回り、鉄道を撮影している。駅弁にも精通し、今までに食べた駅弁は6000食を超える。『にっぽん全国100駅弁』(双葉社)『全国私鉄 路線と車両大図鑑』(世界文化社)など、著書は共著も含めて100冊。これまで取材した国は95ヵ国にのぼる。